恋愛話は、好きだ。ただそれは物語の恋話であったり他人の恋を語ったりする事であって、自分の恋愛を語るのは得意ではない。
得意ではないのだが、アーチェの目はミントをしっかり捉えていた。

「んで、結局クレスとはどーなのさ?」

 直球な問いかけに顔を赤くするミント。アーチェの口から出てきたのは、他でもない想い人の名前だったから。
思わず、今ここには居ないクレスを思い浮かべる。
 あの旅をしていた頃からずっと、特別な感情を抱いていたのは充分自覚していた。しかし、

「ク、クレスさんとは……別にそういう関係ではありませんし」
「えー、でも知り合ってからはもう長いじゃん? そろそろこう、色んな事があっても良いと思うんだけど」
「色んなって……」
「もしかして手ぇ繋ぐのもまだだったり?」
「まだも何も、そんな事をする関係ではありません」

 ミントとクレスの関係は、傍から見れば仲睦まじい恋人同士のようだ。人に問えば殆どの人がお似合いだと羨むくらい、
互いを想い合っているように見える。
 だが実際の所、二人の関係は「旅の仲間」から何一つ進んでいなかった。今までは再建作業でそんな色恋沙汰に
構っている暇もなく、今は今でクレスもミントも仕事の影響でゆっくり時間を掛けて話す機会が作れずにいる。
そんな状態で奥手な二人が進展出来るわけも無かった。

「じゃあ告白はしないの?」
「……それは」

 本当は好きでたまらないから。クレスとそういった仲になる事は、何度も夢見てきた。昔は、村の再建が落ち着いたら、とか、
仕事に余裕が出来たら、とか、思っていた。いつかクレスに想いを打ち明けられたらと。

「もう、このままでも良いかなって……そう思うんです」
「へ? 何で??」
「クレスさんは私の事を大切な仲間だと思ってくださっています。それに今の生活や関係は、もう私にとって充分幸せですから」

 クレスはミントを仲間として、共に暮らす家族として支えてくれている。大切な人にそうやって愛されているのに、
何の不満があるのか。ミントは、次第にそう考えるようになっていた。

「でもさ、将来クレスに他の女の人が出来たら、もう今みたいな生活は出来ないよ?」

 痛い所を突かれる。確かに今は幸せだ。だが、約束されたものではない脆いものだというのもわかっていた。例えば、
アーチェの言う通り、クレスに想い人が出来たら。ミントがクレスに対して抱くような感情を、彼が別の人に
注ぐようになったら。当然ミントの居場所はクレスの傍には無くなるだろう。

「人生は長いようで短いんだから、うじうじ悩んでるとあっと言う間にお婆ちゃんになっちゃうよ」

 極論ではあるが、人の寿命よりも遥かに長く生きるハーフエルフのアーチェが言うと、その言葉は妙に重かった。
 お婆ちゃん、とまでは行かなくても、そんな風にして逃げ始めてから随分経つ。もしクレスに恋人が出来たら、
果たして自分はきっぱりとクレスへの想いを諦めきれるだろうか。想像するのは少し辛かった。







 ……To be continued
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